
自律神経は「交感神経がアクセル、副交感神経がブレーキ」と説明されることが多いでしょう。
ポリヴェーガル理論では、そのブレーキを一つにまとめません。副交感神経である迷走神経を、腹側迷走神経の『安全・つながり』と、背側迷走神経の『停止・閉じこもり』に分けます。
つまり、人の神経系には大きく3つの状態があります。
- 交感神経|闘う・逃げる
- 背側迷走神経|固まる・止まる
- 腹側迷走神経|安全を感じ、人とつながる
古淵かえる整体院は、このポリヴェーガル理論を施術と説明の前提にしています。
周囲が安全だと感じられると、顔を上げ、人の表情を見て、声を聞き、落ち着いて話せます。呼吸や心拍も穏やかになり、食事、睡眠、学習、遊び、回復へエネルギーを使えます。
腹側迷走神経は、交感神経へゆっくりブレーキをかけ、興奮しすぎず活動できる状態を支えます。何かを「治す」前に、まず身体がこの安全を感じられることが重要です。
危険を感じると、心拍と呼吸が速くなり、筋肉へ血液を送り、闘うか逃げる準備をします。不安、焦り、怒り、動悸、食いしばり、眠れない状態などとして現れます。
交感神経は悪者ではありません。仕事、運動、集中、危険回避に必要です。問題は、危険が去ったあともブレーキが働かず、警戒を続けることです。
闘っても逃げても助からないと身体が判断したとき、急にブレーキをかけ、固まる、動けない、感覚を切る、意識が遠のくといった反応で身を守ります。
強いだるさ、無気力、人と会いたくない、身体が冷える、頭が働かないなどとして現れることがあります。DV、性暴力、パワーハラスメント、いじめなど、逃げられない体験のあとにこの反応が続くこともあります。
3つは性格診断ではありません。神経系が生き延びるために選ぶ状態であり、一日の中でも行き来します。
ポリヴェーガル理論では、意識して考えるより先に神経系が安全・危険・生命の危機を察知する働きを
ニューロセプションと呼びます。
穏やかな声、やわらかな表情、知っている場所、自由に動ける空間、信頼できる人、ゆっくりした呼吸など。
大きな音、低い怒鳴り声、急な動き、逃げられない場所、痛み、睡眠不足、過去の記憶を呼び起こす刺激など。
頭では「大丈夫」とわかっていても、身体が危険だと判断すれば動悸や緊張は起こります。逆に、言葉で説明できなくても、安心できる人の声を聞くだけで呼吸が変わることがあります。
これは「気の持ちよう」ではありません。症状だけでなく、施術室の刺激量、声のかけ方、姿勢、目線、人との距離も自律神経へ影響します。
腹側迷走神経が働いていると、人の顔や声を手がかりに落ち着けます。困ったときに相談し、助けを受け、考えながら行動できます。
安全が得られないと、交感神経が働きます。脈が速くなり、血圧が上がり、筋肉を緊張させ、消化や排泄は後回しになります。
さらに生命の危機を感じると、背側迷走神経が急なブレーキをかけます。身体を固め、感覚や動きを切り、エネルギー消費を減らします。
この順番は単純な階段ではなく、複数の状態が混ざることもあります。たとえば、表面上は笑っていても身体は固まっている、動けないのに頭の中だけ焦り続ける、といった状態です。
腹側迷走神経と背側迷走神経では、ブレーキのかかり方が違う
交感神経の勢いをゆっくり調整します。活動を完全に止めず、落ち着きながら動けるブレーキです。会話、仕事、運動、遊びの途中でも安全を保てます。
生命を守るために急に止めます。動き、感覚、代謝を落とす非常ブレーキです。本人の意思が弱いから止まるのではありません。
自律神経の不調を「副交感神経を優位にすればよい」と考えるだけでは足りません。すでに
背側迷走神経で止まっている人をさらに休ませ続けると、活動へ戻りにくい場合があるからです。
交感神経が働くと、身体は闘うか逃げる準備をする
危険な動物に出会った場面を想像してください。
- 心拍を上げ、筋肉へ血液を送る
- 呼吸を速くして酸素を取り込む
- 瞳孔を開き、周囲をよく見る
- 消化や排泄を後回しにする
- 痛みを感じにくくする
トイレに行っていたらやられます。食事をゆっくり消化している場合でもありません。身体は、生き残るために必要な機能へエネルギーを集めます。
安全だと、顔・声・耳を使って人とつながる
人は安全を感じると、相手の目を見て表情を読み、声の抑揚を聞き、自分も表情や声で返します。好きな人の近くにいると、好きな人の空気を吸いたくなります(笑)。
この顔、声、呼吸、心拍、耳の協調が、ポリヴェーガル理論でいう社会交流システムです。
気圧と免疫の関係
安保徹先生の自律神経・免疫の考え方も施術の参考にしています。
高気圧では交感神経が働きやすく、顆粒球の割合が増えて炎症が起こりやすい。低気圧では副交感神経が働きやすく、リンパ球の割合が増えてアレルギー症状が出やすい、という考え方です。
天気の変化で頭痛、だるさ、古傷の痛み、アレルギーが出る方は、気圧だけでなく、睡眠、姿勢、呼吸、活動量も一緒に見ます。
原因不明の血圧上昇
医療機関で大きな病気が見つからず、緊張、呼吸、姿勢、自律神経の状態と連動して血圧が上がっている方では、身体が整うことで血圧も改善することがあります。
ただし、高血圧には心臓、血管、腎臓、内分泌、薬など多くの原因があります。血圧の薬を自己判断で変更・中止せず、医師の診察と検査を受けてください。
危険の中で生き延びることと、傷を癒やし、新しいことを学ぶことは同時にはできません。
ポリヴェーガル理論を前提にすると、回復の出発点は「リラックスしなさい」ではなく、身体が安全の手がかりを受け取れることです。
人は、人とのつながりで自律神経を調整します。信頼できる人の顔、声、距離、リズムを借りて落ち着くことを共同調整と呼びます。
コミュニケーションが苦手なのは、性格が悪いからでも、能力がないからでもありません。神経系が危険を感じ、顔を見られない、声を聞き取れない、言葉が出ない状態になっている可能性があります。
腹側迷走神経が働くと、落ち着きながら動けます。散歩、会話、歌、遊び、軽い運動など、心地よい活動の中にも安全があります。
身体を止めすぎず、興奮させすぎず、自分が戻れる範囲を少しずつ広げる考え方が「耐性の窓」です。
耐性の窓と過覚醒・低覚醒を読む
動悸や緊張は「弱さ」ではなく、闘う・逃げる準備。無気力や停止は「怠け」ではなく、生命を守る非常ブレーキとして見ます。
強く押す、急に動かす、大声で励ますことが、すべての人に合うわけではありません。声、呼吸、姿勢、触れ方をその日の神経状態へ合わせます。
目線を動かす、息を吐く、足元を感じる、声を出す、背骨を小さく動かすなど、「緊張する」か「止まる」以外の選択肢を増やします。
施術室だけで落ち着くことが目標ではありません。眠る、食べる、働く、遊ぶ、人と関わる生活の中で安全を感じられる身体を目指します。
自律神経の不調に対する施術を見る
自律神経の症状を、すべて理論だけで決めつけないでください
動悸、めまい、だるさ、頭痛、胃腸症状、気分の落ち込みには、心臓、脳、内分泌、貧血、感染症、薬の影響などが隠れていることがあります。
突然の激しい頭痛、胸痛、強い息苦しさ、失神、麻痺、自傷・自殺の危険がある場合は、整体やセルフケアより緊急の医療・相談支援を優先してください。
いいえ。集中、運動、仕事、危険回避に必要です。安全へ戻ったあとも警戒が続き、休めなくなることが問題です。
ポリヴェーガル理論では、副交感神経に腹側迷走神経と背側迷走神経があると考えます。すでに停止状態の人へ、さらに活動を下げる方法だけを行うのではなく、安全を感じながら少し動ける方向を探します。
一つの筋肉のように単独で鍛えるものではありません。声、表情、呼吸、聴覚、姿勢、運動、人との関わりを使い、安全へ戻る経験を少しずつ重ねます。
いいえ。話したくない体験を詳しく説明する必要はありません。今ここで身体が受け取れる刺激と、安全の手がかりから始めます。心理療法が必要な場合は専門家との併用をおすすめします。
この記事は、Stephen W. Porges博士が提唱したポリヴェーガル理論をもとに、身体の反応や姿勢、生活との関係を説明しています。